【5】質疑応答の時間(その2)
<中村>
あと,お一方ほど御質問いただく時間が残っています。御感想でも構いません。せっかくの機会ですからどうぞ。

中学生のみなさん,いかがですか。自分たちのことがたくさん話の中に出てきて,今どんな気持ちでいるのかなとか,一年前を振り返ってあのときのこんな学習が今生きているなあっていう経験があれば。氷上さん,テレビを見る見方とかあのときの学習が今生きているよ,中学校の生活の中でこんなふうにものを見ているっていうことをちょっと紹介してくだされば。

<下村>
そんな格好いいことを言わなくていいからね。


<中村>
聞くところによると,この前何人か集まって座談会をされたとか。その様子をお伝えください。

<氷上>
この前高橋先生に呼ばれて,みんなで集まって,6年生で活動したメディアの学習について振り返ってみたんだけど,その時にいろんな意見が出て,6年生にやったことが中1になってどんな場面で生きているかとかテレビの見方などが変わったという話をして,本当に今振り返ってみると6年生にやったことがすごい役立っていて,いい活動ができてよかったと思っていて,他の小学校や中学校や高校のみんなもこういう活動をすると将来役立つからいいなあと思っています。

<中村>
大変優等生の感想ありがとうございます(笑)。で,遠慮してくれたんだと思うんですが,私がその座談会で話題に出ていた生の声をちらちらっと紹介しますね。「もうみんなってなあ,カメラ撮るとき逆光でも平気で撮ってるよなあ。○○先生だってこの前,『先生逆光です!』って言っても『ああ,構わん構わん。』って。信じれんよなあ。とか『先生,これ著作権違反じゃないですか?』ってひったかの作品作るときに言うと『ええ。構わん構わん。』って言われた。あれって絶対いけないよなあ。」とか。

たぶん言ってはいけないと思って今は抑えてくれたんでしょうが。彼女たちはこういう制作体験を中心になって行ったメンバーですから,中学校に行って,他の学校から来た人たちはやっぱり勉強していないなあ,申し訳ないけど先生御自身も勉強していないなあということを,分析しているんですね。恐るべし中1という感じです。これから学習をどんどん重ねていったら,子どもたちに「先生そんなことも知らないんですか?もっと勉強してください。」って突き上げられちゃいますよね,ホントに。

<下村>
そう,これがメディア・リテラシー教育の一つの恐ろしいところで,先生と生徒が同じスタートラインに立ってるんですよ。先生もやったことがないわけですよ,実は。作ったことがないから。必死になって全くいっしょに取り組むしかないっていう,これがとってもおもしろいところで。去年も例えば,高橋先生がアドバイスした途端に横から僕が「それは違う。僕はこう思う。」って言ったりして。目の前で答えがいくつも並ぶ,答えが一個じゃないんだっていうことを目の当たりにできる経験っていうのはとってもいいと思うわけですよ。「それは違う」って言っている僕の答えだって唯一絶対の正解じゃ当然無いわけで。そういう,あくまでも引いた目で見られるようになっていく,ここに答Aが転がっているとしたら,それと同じ高さの地平で答Aだけを見るんじゃなくて,ポンと飛び上がって空の上から鳥の目で答A,B,C,…といくつも並んでいるのを見るっていう形で見られるようになる。これは本当に大きいです。

メディア・リテラシーって,突き詰めていくと本当に循環・ループなんですね。つまり,例えばさっき御覧いただいた筑紫哲也さんの番組での「カナダのメディア・リテラシー」のコーナーだって,より僕の意図が伝わるようにさんざん計算して練って構成して作っているわけですよ。それから今日のこの講演だって一番効果的にみなさんがそういう気持ちになっちゃうように順番を考えてしゃべっているわけですよ。だからそういうのも含めて,「今日も下村はこう言っていたけど,こういう問題もあるんじゃないかな」っていうことを思うことができるかどうかっていうのが,まさにメディア・リテラシー的思考の勝負所でありまして。これはもう本当に無限です。例えば,NHKが作っているメディア・リテラシー番組を題材に,その番組自体の構成意図についてもう一度メディア・リテラシーする研究発表がある,その発表者の構成意図を聴衆がもう一回メディア・リテラシーする,みたいに,際限なくできちゃうわけで。そういう頭のゲームをやってると,どんなアジテーターが現れてもきっと「あいつはこう言っているけどな」って冷静に受け止め,簡単には踊らされない健全な大人になってくれるのではないかと私は思います。素直に従ってほしいと思っている大人から見ればひねくれ者が育つということになるわけですけれども,そういう意味でだったら,僕はひねくれてていいと思います。


<中村>
どうもありがとうございました。ちょうど時間となりましたのでこれで終わらせていただきます。

<その後のやりとりは省略>
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