【5】質疑応答の時間(その1)
<司会:中村>
せっかくの機会ですからみなさん遠慮無く質問をなさってください。貴重な講演の時間,もっとお話しをされたいでしょうに,10分も削ってくださってありがとうございます。

<下村>
いやいや,一方通行はよくないですから。


<中村>
いかがでしょうか?

<会場からの質問>
塩釜港女子高生死体遺棄事件(講演録【3】-[A])のことで,手を挙げてどう思いますか?という話がありましたけど,下村さんは現場におられてその状況について知る手がかりがいくらかあったと思うのですが,下村さんはどのように思われているのですか?

<下村>
ああ,私があの事件をどう思っているかですか?そういう先入観はもう極力もたないようにしています。つまり,松本サリンの時はまさにそうだったんですけど,ご記憶かどうか分からないですが我々の番組,当時「スペースJ」っていう水曜日の夜の番組をやっていたんですが,その番組とテレビ朝日の「ニュースキャスター」っていう番組この2つだけが,他の全メディアの流れと一線を画して,「河野義行にはサリンは作れない」という立場をごく初期から報道していたんですね。そのときにも,もう本当に視聴者から非難囂々だったんです。「何でそんな殺人者の肩を持つんだ。遺族の気持ちを考えろ,非国民。」みたいなことをずっと言われていたんです。でも,実はその時ですら,「じゃあ下村さん,あなたは本当はどう思っているの?」と聞かれれば,30%は河野さんが黒かも知れない,と思っていました。残りの30%は何で40%は何かというのも具体的にあるんですけど,それは今となっては明かせません。とにかく,「全くの白でこれは冤罪だ。ひどい。」という気持ちでやっていたわけではありません。ただ,客観的に言って河野さんが黒であるという断定材料が何もなかったんで,その通り「河野さんがサリンを作ったっていう材料は現時点で何もありません」ということをそのまま報じたんですね。

だからさっきの塩釜の事件の報道も,ホントにありのままです。警察サイドの情報から見るとこうこうこういうストーリーになっちゃうけど,よくよく見ると全然まだ確証がありませんねというところまでで。私の胸の内でも,あるパーセンテージは菅原容疑者がやったんだろうなと思ってますし,あるパーセンテージではそうじゃないなと思ってますけど。それが20%か80%かというのは,あまり大した意味はなくて,とにかく《100%じゃないこと》を100%かのように,他の可能性が無いかのように報じてしまうことは慎まなければというふうに思ってます。ただそれをメディア側に期待するだけでなく,みなさんの方でも「何だ!一個の見方しかやってないじゃん!100%で受け取るのやめた!」という受け止め方をして自分で「こうじゃないの?」と考えることが大切だし当然の姿ですよね。


<中村>
今年制作体験を指導された松原先生,何か御質問があればどうぞ。

<松原>
先ほどの中央小学校の作品で,非常に心が痛いと言うか。彼らが放課後カメラを持って撮りに行ったことも知ってましたし,仮完成したビデオを見たときによくこれだけ考えて作ったな,という驚きでまず私は非常にうれしかったんです。うれしかったというのが,こいつらは自分たちの伝えたいことを一生懸命伝えようとしているだな。そのためにどうすればよいかということをいろいろ考えてやったんだなということで,私としてはよく頑張ったなという気持ちがしたんです。で,工夫とか何とかということでそういう話を出したんですが。今日まさにそれに関する話をされているのを聞いて,映像から伝わるものが違うんだということを言われて,もう一つメディアについて真剣に奥まで考えて,指導したり子どもたちといっしょに学んだりしなければならないなという気がしました。今日来させていただいて,そういう意味で具体的な指導がいただけて,これからもいろいろとやっていけるなあという気がしました。

どうしても私たちはずっと受け手でいたので,送る方からの見方というのがほとんどできていないので,今日も子どもたちにいろいろアドバイスをいただいたんですけど,非常に的確な分かりやすいお話をしていただけてよかったと思います。これからもこういう機会が数多くもてればと思っています。質問ではなく御礼でした。ありがとうございました。

<下村>
本当にねえ,彼らにとっては私の指摘は極めてキツイ・厳しい言葉だったと思います。ホントは「よく思いついたねえ,すごいね!」とほめてあげたいようなことなんですね。ただそれを,一般のメディアがみんなやっちゃうと,分かりやすくするために作った,作り物の情報ばかりが飛び交っちゃうってことになります。そこに自分の中に厳しく一線を引いて,本当のことだけ伝えようという気持ちを持てば,彼らがもし作り直すようなことがあって,時間がかかるけど本当にゴミを見つけるまでやろうと撮ってきたらねえ,そのとき分かると思いますよ。あっ,こっちの今回のゴミ拾いシーンの方がずっと映像的に見てておもしろいってことが。分かると思うんですね。そういう気づきってとっても大事かなと思います。
講演記録トップページへ     前へもどる     次へすすむ