【4】実践事例報告(その2)
C各地の小学校「総合的な学習の時間」でのビデオ制作実践
それから4番目。各地の小中学校で「総合的な学習の時間」を使ってビデオ制作をやってみようという動きは急速に増えつつあります。あちこちありますんで,一番身近な例を紹介します。今日ここに来ている中学生のほとんど全ては,去年の笠岡市立金浦小学校の6年生でありまして,僕が彼らの作ったビデオに昨年アドバイスをさせてもらったんですけれど。その時にですね,発表会で出たみんなの意見というのがすごく鋭かったので私驚いたんです。やっぱり自分たちで作ると,ここまでよく気がつくのかと驚いたんです。

例えば他の子が作った作品を見てね,「何を質問しているのか分からなかった。なぜ字幕で補足しないのか?」とか「珍しいと言っているけど,何がどう珍しいのか分からない。」とか。それから,酒井さんという人が地元のお祭りの説明でインタビューに出てくるんだけれども,「私たちは酒井さんを知っているけど,見ている人は知らないんだから,知らない人のために酒井さんの説明をちゃんと入れるべきだと思います。」これは確か金関さん(本人が会場にいた)が言ったんだよね。これってかなり高度で,要するに相手の知識レベルに応じた説明の仕方っていうのをちゃんと設定しようということですから,こういうことまで自分で制作すると分かるようになっちゃうんですね。

それからインタビューの仕方についてもいろんな批判が出て,「テーマとずれてるじゃないかこの質問は。」とか「たくさんの言葉で質問して,答えが『ハイ』だけじゃないか。イエス・ノーだけで答えられるような尋ね方じゃダメなんじゃないか。」とか。そういうような議論が飛び交いました。VTR作品を使ってインタビューの仕方というのを身に付けると,即全ての教科の授業で「質問の仕方」がスキルアップしますよね。自分の分かんないこと・聞きたいことを的確に質問相手に伝える技術っていうのは,考えてみると今までの学校教育の中ではあまりちゃんと教える場面ていうのが無かったわけですよ。「分かんないことがあったら質問しなさい」とは言われても,どうやって質問したらいいのかの《質問の仕方》を教える授業ってあんまり無かったんだけど,ビデオを作るといやでもインタビューっていうシーンは出てきますから,そこでインタビューってどうやったらいいんだろうってことで,この技術も身に付いてしまうんですね。

それからもっと高度な「演出論」みたいな話も出ました。体育館の紹介の時に,あるチームが三脚を使わないでカメラを担いでダダダと走りながら体育館へ入っていくシーンがあったんですよ。これはもういかにもワイドショーとかでよくある撮り方で,作る側がまねしたくなっちゃうのは分かるんだけど,見た他の子どもたちからは「あそこ見づらいじゃないか」という大変冷ややかな感想が浴びせられて,ああそういうもんなのかと,撮った側はちょっと思惑が外れておりました。

こういうようなことも議論の中に出てきまして,私は本当にアドバイスしに行ったのだか感心しに行ったのだか分かんないような状況でした。まあきっとこの活動をしてみてこの6年生達は「これはおもしろい」と思ったんでしょうね。じゃなきゃ今日ここまで,出てこないと思いますよやっぱり。一年後に講演があってもまたちょっと来てみようかと思うっていうことは,何かそこで印象に残ったものがあったんだと。それぐらいメディア・リテラシーの授業って,それ自体《理屈抜きにおもしろい》んです。これは大変重要なポイントだと思います。楽しみながらやっているうちに知らず知らずのうちにそういう目が身に付いてしまう,というものがあります。
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