【3】どんな「気付き」が「得られる」?
〔B〕他者へ情報を伝える難しさ(その1)

受け取る難しさはピンと来るんですけど,情報を他の人に伝える難しさ,これも実は非常に大きいです。これから実践を紹介しますが,伝える難しさが分かるようになると,すなわち自分で編集・制作体験をすると,その後《受け取り方》が変わるんですよ。ニュースの見方とか。これは,今までやった「総合的な学習の時間」やいろんな学習の場面で表れてくる現象なんですけども。自分で制作体験をするとその後ニュースを見ても「ああ,編集が入っているな」と分かってくる。鵜呑みにすることから免れることができる。先ほどの〔A〕と,この〔B〕とは別々なことではなくて,B(伝える難しさ)が分かるとA(受け取る難しさ)もはっきりと自覚できるようになるという関係にあります。

では伝える難しさの例として,なるべくネタは新鮮な方がよろしいので。数時間前に笠岡市立中央小学校の子どもたちのビデオ作品を私,拝見してきました。その中の1本,30秒の作品ですからまばたきする間に終わっちゃいますから,よく御覧ください。

(あるグループの作品を1本紹介)

課題が「30秒で自分たちの言いたいことを表現しよう」という時間制限があるものだったので,彼らはこういう形にまとめました。これをどう伝えればもっと伝わったかということ。いろんなことが言えるんですが,まずは技術的なことをいくつか並べてみます。その後,もっと根本的な問題に触れてみたいと思います。

まず技術的なことで言うとですね,(もう一度再生しながら)ここで川が出てきてゴミが浮かんでると。で,海が出てきてゴミが浮かんでると。この後。結構「字幕」ってねえ,多すぎちゃうんですよ,自分たちで映像表現すると。「清掃中」なんて字幕,明らかにいりませんよね。これ,だれがどう見ても清掃中だから。で,この例は非常にシンプルですけれども,字幕を入れるとどうしても人間は字の方に目が行っちゃって,読んでしまうので,その間画面への注意力の方がお留守になっちゃう。だから基本的に字幕っていうのは画面上の邪魔者で,なるべくはそんなもの使わないで映像で表現した方がいいっていうことをいつも言ってます。それをやらないと,特に近頃のテレビはひどいんですけど,セリフをガンガンガンガン字幕で入れちゃって,もうそっちを読むのが精一杯で,肝心の発言者の顔を「そう言えば見なかったなあ」と言うくらいに,もうガンガンやってますよね。そういう風になってくるともう結局,映像メディアであっても文字メディアと同じ伝わり方しかしなくなっちゃって,非常にそれはもったいないんです。文字メディアと映像メディアとがどう違うかというのはこの後すぐ出てきますが,そういう意味で例えばこの「清掃中」という《字幕》を入れないで清掃している《姿》をそのまま見せた方がいい。

この後,「リサイクルしたいと思います」と言った。でお店に行って,結局2回同じことを言っているんですね,全く同じことを。これ30秒しかない中でとってももったいないことで,結構しょっちゅうみんなやっちゃうんですけど。とにかく情報は削いで削いでむだを削いでコンパクトにコンパクトに。「伝えられることはもっと無いだろうか。この贅肉を落とせばこっちが入るんじゃないか」ということを一生懸命考えましょう。そうするとここでは,1回目に「リサイクルに行きます」と言えば十分で,2回目は他のことが言えたんですよ。「これをここに入れるとああなってこうなってこうなります」ていうような,このリサイクルボックスの仕組みについて同じ時間でしゃべれましたよね,ポンとトレーを入れながら。それを言った方が,このリサイクルの仕組みのよさというのはちゃんと伝わるわけです。だから自分の言いたいことをある制限時間の中で言おうと思ったら,なるべく言わなくていいことや繰り返しやむだを省く。こんな事,普段の生活では伝達するときに考えたこともない要素でしょうけれども,最初に言いましたように,これから先は情報伝達の相手は気心知れた身内だけじゃなくなっちゃうんですね。全然知らない人との間で情報のキャッチボールをしなければならないということになると,知らない人達はそんなに優しくありません。つまんないと思った瞬間から後は聞いてくれませんから。本当にコンパクトに自分の伝えたいことをスポンと相手に伝えるようにする工夫というのは,お友達に話すときの何倍も骨を折る必要が出てきます。

(紙に文字を書いて大写しにしているシーンについて)
今の部分ですけど,これが言いたいからきっと紙に大きく書いて撮ったんでしょう。その気持ちはとってもよく分かるんですけど,これだってやはり文字メディアになっちゃってるんですね。「海をきれいに」ということを言いたいんだったら,やっぱりここで最後に見せるべきだったのは,こんな紙で景色を隠さないで,きれいな海《そのもの》を見せるべきだったんです。彼らはついさっき,映像の中でゴミを拾ってましたよね。拾った後の海岸はきれいになっているはずですよね。そこを見せれば良かったわけですよ。

だからなるべく映像メディアは《言葉》で語らないで《絵》で語れと。映像の方が視覚的に直感的に相手に伝わるものがとても大きいものがあります。ですから,ついつい言葉,しゃべりや文字に頼っちゃうんだけども,そうじゃなくて現象そのもので語るということをもっともっと大事にした方がいいと思います。原始時代言葉なんて無かったんですから。現象・シーンそのものしかなかったんです。それによって人はものを判断してたわけですから。そっちの方がプリミティブな原始的な方法としてものを把握できるんですよ。言葉にすると1回《置き換え》をやってることになりますから,そんなことはなるべくならやらない方がいい。翻訳なしに,ストレートに絵で語ろう!ということです。
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